溺れるえりーと2

溺れるえりーと2

砂糖堕ちユカリの絶対的正義

【溺れるえりーと1】

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勘解由小路ユカリの人生において、一番美味だと感じた“甘味”を味わって以来、身共は足繁く百夜堂へ通うようになりました

それにここ最近では、百夜堂の看板娘様が新たに業務提携を結んだという喫茶店や甘味処でも、あの美味なる甘味とほぼ同じものをいただけるようになったとの事で、身共は歓喜に打ち震えました!



だがしかし、この機を狙う人達が悪事に手を染める…という嘆かわしき事も同時に起こりうる話!

少しばかり予想していた身共は、【百花繚乱に戻って来ない先輩方の分も身共が頑張って取り締まるしかありませんわ】と考えたのでございます!


えぇ!今までの身共は甘すぎでしたの!

百花繚乱を立て直すためにも…百鬼夜行の治安を維持するためにも…重視すべきものを見落としてしまっておりました!



…そう、重要なのは

(あぶそりゅーと・じゃすてぃす)
    “絶対的な正義”

今の百鬼夜行を守るには、それが一番必要なことなのです

悪は直ちに断つ

即ち──【悪即斬の精神】

これこそが、“百花繚乱のえりーと”を名乗るに相応しい心構えなのです



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ユカリ「んん〜♡やはり普通のお団子と比べても、破格の甘さで頬が落っこちてしまいそうほど美味ですわ〜♡」

この日の身共は、いつものように百夜堂に赴き新作甘味をいただいておりました

今回の新作は、青色や橙色というあまり見かけない色をしたお団子

当然、他の追従を許さない程の安定した甘さ故に舌鼓を盛大に打ち鳴らす

身共は歩き食いで幸せに浸りながら百鬼夜行を見廻っておりました

その後、郊外の飲食店街へ向かった際に見つけたのは──


不良A「おい!お前が勝手に出した店のせいでうちらの行きつけの店が潰れそうなんだよ!さっさと畳んじまえ!」

B「畳むのが嫌なら別のシマ行きな!」

C「それさえ拒否すんなら、力づくでも追い出してやるぞコラァ!」

店主「くっ…まさかここまで反対運動が激しいとは…でも下手に移転して利益が落ちたら、あの方々から見限られるかもしれない…どうすれば…」


「むむ!あそこにお困りの方が!」

その途中、ふと聞こえた身共の声

『悪は滅ぼすべしですわ』

「えぇ、そうですわね!この美しき百鬼夜行に悪人がのさばって良い場所など、一坪たりともありませんわ!」

『であれば、どうすべきか…賢い身共ならご存知のはずでしょう?』


手に持っていたお団子を一気に食べ切り串を投げ捨て愛銃を手に取る

「身共が戦う目的はただ一つ!百鬼夜行自治区における正義のためですの!

即ち…【悪・即・斬】!

百花繚乱のえりーと、勘解由小路ユカリが見つけた新たな信念!それを実践するためにも…早速かちこみですわ〜!」


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不良たちに囲まれ詰め寄られている店主だが、実はアビドスの指示で砂漠の砂糖や塩を使用した飲食店を経営し百鬼夜行自治区での中毒者を増やすという役目を与えられていたアビドス生徒だった

だがあまりに多くの客を獲得したことで飲食店街を利用する人々の反感を買い、今回遂に不良たちから強制退去させられかけた…という状況

本来の百花繚乱紛争調停委員会ならば、こういった状況が発生した場合は諍いを鎮めた後、双方の言い分を聞いて公平に調停すべきである

しかし今の彼女は…


ユカリ「お待ちなさい!」

不良たち「「「「!?」」」」

突然の大きな声に驚いて、一斉に後ろを振り向いた不良たち

「百花繚乱のえりーとこと、勘解由小路ユカリ!ただいま参上ですの!」

野次馬「おおっ!機能不全だと思ってた百花繚乱が動いた!」

「これより身共は“正義”を重んじ、貴女方を“断罪”致しますわ!お覚悟ーっ!」

A「な、なんだ急に…!?ぎゃあっ!」

B「ひゃ、百花繚乱!?うぐえっ!」

C「ちょっ!問答無用すぎるでしょ!?うわあぁぁっ!」


野次馬「…えっ?百花繚乱って、あんな一方的にやる感じだったか…?」


──不良達を奇襲し次々と撃ち倒していく彼女の姿は、最早“調停”とは程遠いものであった




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キキョウ「はぁ…すっかり静かになったわね、この部室も」

百花繚乱の参謀である桐生キキョウは、部室で黙々と書類作業を行いながらふと呟いた


百花繚乱の部長、七稜アヤメは現在行方が掴めない状態

部長代理だった副部長の御陵ナグサも、キキョウに“証”を押し付けた末に行方を眩ませてしまった

同学年であり所属も同じな友人のレンゲは、失った青春を今からでも経験すると言って飛び出した

他の部員たちも1人、また1人と退部していき…今現在残っているのは2人だけ

所属上はレンゲもだが、実質的に見るとキキョウとユカリのみだった


「…私に、どうしろというのよ…」

かつての賑やかな百花繚乱の情景が脳裏に浮かんで仕方がない

憧れていた部長と副部長の顔が浮かんで仕方がない

キキョウは筆を置いて机に突っ伏し弱音を吐く

ここには自分しかいないから、こんな事を聞かれて困る相手もいない


正直な話、もう百花繚乱は廃部にすべきかもしれないとさえ思っていた

こんな機能不全の状態では、最早あって無いようなものだと

実際今書いていた書類は廃部を検討する旨の書類だった



しかし同時に、キキョウはこうも思った

仮にナグサ先輩たちが戻ってきたら?

今もなお百花繚乱を立て直そうと頑張るユカリの気持ちは?

戻りたいと願う部員が他にもいたら?


そう考えると、どうしてもすぐには決断できない…いや、したくない

だからといってこのままでは解決しない

こうして苦悩の連鎖が続くばかり…

キキョウの意思は、かなり限界に近づきつつあった──




すると突然、部室の電話が鳴り響く

顔を上げて受話器を取った

「もしもし、こちら百花繚乱…」

通話主「もしもし!?今さっき百夜堂の前で喧嘩が起きて…しかも尋常じゃないくらい激しくなってきてるんです!このままじゃ怪我人が出そうなので、どうか早く来てください!お願いします!」

「っ!?分かりました、直ちにそちらへ向かいます!」

通話を速攻で切ると、キキョウは愛銃を手に取り百夜堂に向かって走り始める

道中、キキョウは自分の携帯から連絡を入れた


レンゲ「なんだキキョウ?今青春活動で忙しいんだけd」

「百夜堂の前で、大規模な騒動が起きているみたいなの!つべこべ言わずに早く来て!今向かってるところ!」

(ブツッ)

「は!?ちょっ、おいキキョウ!?もしもし!?ったくあいつ、捲し立てるだけ捲し立ててすぐ切りやがった…あーもうしょうがないなぁ!」




「ユカリにも連絡…いや」

キキョウはユカリにも通話を入れようとしたが、勘解由小路のお嬢様である彼女が負傷する可能性を考えてしまい、携帯を仕舞ってしまう

通報主の切羽詰まった様子から察するに今回はかなり激しい戦いになっているのは簡単に分析できる

ユカリが傷を作ってしまうかもしれない可能性がある以上、下手に呼ぶのは危険だと判断したが故だったのだが…

これは結果的に、キキョウ達がユカリの異変に気づくのが遅れることに繋がってしまうのだった──

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キキョウ「…これはまた、随分と派手にやっているわね…!」

通報であったように、百夜堂の前は激戦が繰り広げられていた

爆弾や銃弾が飛び交い、勢いは今もなおヒートアップしている様子…

そして渦中の人物はというと


シズコ「あんたたちィッ!いっつも営業の邪魔してぇっ!今度という今度は許さないからねぇ゛っ!ついでにライバル店も潰せて一石二鳥!あんたたち全員ここから出てけーッ!!!」

フィーナ「アネゴ!追加の手榴弾デス!いつもより爆発規模が5割増しの特別品でございマース!ウミカー!右側の建物と魑魅一座はお任せしマース!」

ウミカ「よぉーし!花火発射ぁー!」


魑魅一座「あっぢいぃーっ!?あいつらなんで加減しねぇんだ!?その辺の建物まで巻き込んでやがる!」

近隣の店主「うちの店に何してくれるんだぁーっ!?許さん!」

流れ弾くらった野次馬「いててて…見境なさすぎだろ…なんで俺まで…」



「ど、どうしてこうなったのよ…!?」

あまりに無法地帯すぎる光景

百夜堂の店主と従業員は相手構わず撃ちまくっていて、流れ弾で負傷する人まで出ている

どうやら、動くものも動かないものも…自分の店と仲間以外全てを破壊しようとしているようだった

近隣の建物は何軒か燃えてしまい、住人や経営者達が怒って反撃をしている…という悪循環



事前にレンゲを呼んでおいて良かったと思うほどの惨状にキキョウは圧倒されるも、参謀として事態を収める作戦をすぐさま立案した

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レンゲ「おーーーいっ!キキョウー!」

路地の向こうから凄まじい速さでレンゲが駆けつけてきた

キキョウ「遅い、作戦立案が済んでからもう3分は経ってる」

「んなこと言ったって…!はぁはぁ…!遠い場所にいたんだから、仕方ないだろうが…!これでも超特急で来たってのにお前ってやつは…!」

息を切らせながら文句を言ってくる

「とりあえず避難誘導はしておいたわ。あとは百夜堂の店員達、応戦している人達、魑魅一座の連中を大人しくさせて、全員縛り上げるだけよ」

「ああそうか…って縛り上げる!?そ、そこまでしなきゃダメなのか?」

私は顎で百夜堂方面を指す

首を少し伸ばして激戦を垣間見たレンゲは呆れた顔をしながら

「しなきゃダメそうだな…」

と言った

「分かったらさっさと始めるわよ。まずは、近くの建物の上層階から飛び降りて百夜堂の3人を制圧。そのまま魑魅一座の方へ向かってある程度でもいいから捕縛する。最後に応戦していた人達…だけど彼らは百夜堂の3人が制圧されたら報復する可能性も考えられるから、魑魅一座はある程度で良い。分かった?」

「…ちょっと待て、まさかそれ全部私達だけでやるのか!?」

「他に誰がいるの?…今の百花繚乱で、これだけの事を出来る部員はもうあんたと私しかいないのよ」

「っ!…あーもう分かった!分かったよ畜生め!百花繚乱の切り込み隊長舐めんじゃないぞ!作戦参謀!」

「…うん、信頼してる。作戦開始っ!」




そしてレンゲとキキョウは作戦を無事に成功させたのだった

百夜堂の3人は、突然の奇襲で不意を突かれた事でかなり呆気なく制圧され

魑魅一座は、上から現れたかと思いきや今度はこっちに向かってきた百花繚乱になすすべもなく、殆どが捕縛された

幸いにも、反撃していた店主や経営者達は百夜堂の3人や魑魅一座達が百花繚乱によって制圧されたのを見ると報復などをせずに銃を置いてくれた



こうして百夜堂前の大乱闘は鎮圧されたのだが…キキョウとレンゲには、かなり引っかかる点があった

今回の事件を起こした主犯である百夜堂の3人は、あんな凶暴な性格ではない

実際3人を大人しくさせた後に事情聴取を行おうとしても、3人は聞く耳を持たずに暴れようとし続けたのだ

結局手の打ちようがなく、当身で意識を落としてから拘禁する事になった…


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百鬼夜行でも善人寄りであるはずの彼女らが何故ここまで暴走したのか…原因が何かあるはずだと2人は考えた

そこで2人は陰陽部に向かい、ニヤとカホの協力を得て、百鬼夜行の不穏な動きを徹底的に調べ上げた




数日間情報収集を行った末

キキョウ達は、遂に“砂漠の砂糖”の存在へと辿り着いた…


ニヤ「いやぁ…これは相当由々しき事態やねぇ…」

カホ「依存作用を齎す調味料…そんな物が百鬼夜行自治区内で秘密裏に流通しており、最初の売人が百夜堂のシズコさんだったと…」

キキョウ「そして元締め、生産元はあのアビドス自治区…どういう事なのよ本当に」

レンゲ「まさか、アビドスの奴らが百鬼夜行に宣戦布告でもしたって事か!?」

「判断するには時期尚早ですが、砂糖の流通は百鬼夜行だけでなく他自治区でも確認されているようです。特にゲヘナやトリニティは酷い有様のようで…」

「レンゲ、こうなったら私たちも陰陽部と協力して取り締まらないと」

「ああそうだな!まずはそれからだ!」

「ニヤ様、早急に流入を阻止しなければなりません。鎖国体制を取りましょう」

「そうやね、それしかなさそうやなぁ…はぁ、こんな事百鬼夜行の歴史でも本当に稀な出来事じゃないん?」

「…そういえばユカリ、百夜堂の件より前から全然見かけてないな。キキョウ、お前ユカリと会ったか?」

「いや、私も会ってない。ずっと部室にいたけれど、何故か顔さえ見せなかったわ」

「…まさかとは思うんだけどさ、ユカリも砂糖を食っちまったなんてこと…」

「っ…!?あり得るかもしれない!ニヤ部長、カホ副部長、私はこれで!」

「お、おい待て!私も行く!」

「どうぞ此方のことは気にせず、ユカリさんのところへ行ってください。部長、資料整理の手伝いをお願いします。チセちゃんは今日お休みしていますし」

「え、あ…そ、それじゃあしょうがないなぁ…キキョウさん、レンゲさん、もし何かあったらまた相談して下さいな〜」

2人は軽く頭を下げると、急いでユカリの行方を追った



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最初に携帯電話に連絡をしたが、何故かすぐに応答するはずのユカリは全く応答しなかった

ユカリが行きそうな場所を探し、ユカリの目撃情報を聞き込むこと1時間後…

2人はようやく有力そうな情報を得た



市民A「数日前…えっと、百夜堂の事件が起こる前日だったかな?確か百花繚乱の服装をした子があそこの店を脅してた不良達をボッコボコにしてたんだよね」

そう言って近くのスイーツ店を指し示す


B「そうそう、しかし百花繚乱ってあれほど一方的だったか?なんかこう、紛争調停とか名前にあるからもう少し手心を加える感じだと思ってたんだけどさ」

キキョウ&レンゲ「「…は?」」

B「…って、君達も百花繚乱だったな。なんか悪い言い方をしてすまない」

レンゲ「ああいや!そういう事じゃないんだ!…あんたらが見た生徒がやるとは到底思えない事でさ」

A「てことは、後輩さんか何かかい?」

「ああ、そうなんだ。そいつを…可愛い後輩を探してるところだったんだ」

キキョウ「レンゲ、その不良に脅されていた店の店主にも話を聞くわよ。重要な情報提供ありがとうございました」

A「いやいや、頑張ってくれよな!」

B「俺たち、百花繚乱のこと応援してるからさ!」

「…ああ、感謝する!」


そして2人は、問題の店へと向かった

「アポピ13号店…チェーンなんだな」

「そうみたいね」

「しっかしお客の入りが良いな…なんか見てたら私も食べたくなってき」

「ちょっと」

「…冗談だよ。さっ!聞き込み開始!」

若干誤魔化すようにしてアポピという名のスイーツ店に入った2人


店員「いらっしゃいませー!何名様ですか?今席がかなり埋まっていまして…」

「ああ違う違う、客じゃなくてちょっと話を伺いたいだけなんだ。店主さんいるか?」

店員「あ、そうなんですか。じゃあ此方で少々お待ちを…リーダー!」

店員は2人をバックヤードに案内してから店主を呼びに行った


「…レンゲ、これを見て」

キキョウはバックヤードに積まれた砂糖の袋を指差す

「なんだよ?…っ!これは…!?」

そこには水色のラベルに大きくブランド名が書いてあった

その名は──

「“砂漠の砂糖”」

「くそっ…こうやって蔓延させてたって事か…!」

「この店は完全に黒ね。けれど、まずはユカリの事を尋ねるのが先よ。今陰陽部に通報を入れておいたわ」

「お前やけに判断早えよな…まあそこが作戦参謀らしいけど」

「しっ、来たわよ」

少しして1人の生徒が現れる

店主「失礼しました、私に聞きたいことがあるって話で?」

「はい。5日前、ここを襲った不良を撃退した私達と同じ制服の生徒の事について知っていることがあれば話して欲しいのですが」

それを聞いた店主は見るからに動揺した

店主「あー、そ、その方ですか…えっとですね、不良を叩きのめした後に、感謝の言葉を伝える暇も無く颯爽とどこかへ行ってしまって…」

「…ふぅん、貴女がお礼と称して砂漠の砂糖を振る舞ったとかではなく?」

「なっ!?どうしてそれを…あっ!?」

慌てて口を塞ぐ店主

「おい!ユカリに何をした!言わないと店ごと吹っ飛ばす!」

レンゲは店主の胸ぐらを掴み持ち上げて問い質す

店主「ひぃっ!?あ、あの子には、うちの砂糖菓子を食わせただけだ!それ以上は本当に何もしてない!食い終わったらすぐどっか行ったよ!」

「これが麻薬同然のモノだと知ってて、その上でユカリに食べさせた…と?」

店主「だ、だってそうしなきゃ、あの方達に失望され…」

「あの方…まさかアビドスの奴か?」

店主「な、なんでそれを!?」

「…口が軽すぎるのも考え物ね…はぁ、もうすぐ陰陽部がここに来る。この店でやってきた悪事を全て白日の元に晒してやるわ。もう二度と砂を踏みしめる事は出来ないと思うことね」

店主「そ、そんな!カルテルからの報酬がもらえなくなるじゃん!」

「なんでそんなに全部ベラベラ喋るんだよ?…もう怒りも冷めるわ」

店主「あ」

「まあ、アビドスについて知っている事を洗いざらい吐かせやすくなるのは楽で良いでしょ」

「チッ…ユカリの行方を尋ねるはずが、まさかアビドスの拠点を摘発することになるなんてな…お前、本当に知らないのか?嘘吐いてたら…」

店主「いや!本当に知らない!これだけはガチだ!頼むから信じて!」



その後、陰陽部の生徒達によって従業員は全員逮捕された

そのタイミングで、2人はユカリの行方を再び追い始める…


なお、アポピ13号店は即座に閉店。砂糖は全て没収され、客として入ったことのある住人達は全員拘束されたのだった




ニヤ「今回ばかりは抜け出す暇なさそうやねぇ…困ったわぁ…」

カホ「言わせてもらいますが、そもそも毎回抜け出そうとしないでください」

チセ「ん〜、一句思いついた〜…

甘き口 気づかず背後に 蛇の口」

カホ「こ、こんな時にチセにゃんの一句が…!くぅっ!紙にしたためたい!でもそんな暇がないっ…!」

ニヤ「…みんな、気張ろうねぇ…」

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その夜


ユカリ「身共はもう、先輩方に合わせる顔がありませんわ…」

営業時間を過ぎ誰も入れないはずの神木展望台で座っていたユカリ

眩ゆい月光に照らされた百鬼夜行のほぼ全てが眺める絶好のスポット

これを一般の観光客や市民達が見る事は叶わないだろう

つまりユカリは、百花繚乱であるというのに不法侵入をしていたのだ


しかし、こうでもしないともう落ち着きを保てなかった

砂糖の影響で彼女の心は荒ぶり、過激な思想へ傾倒してしまっていたから…



砂糖を得た事で一時的に正気を取り戻した後の彼女の自己嫌悪っぷりは、海よりも深いレベルだった

しかし、その正気も一時的なもの

この後再び“絶対的な正義”に溺れる自分が表層化してしまうことだろう


「身共は…百花繚乱のえりーとであろうとしたのに…百花繚乱として…いいえ、人間として失格ですわ…」

木の柵に寄りかかりながら、涙を流して小さな声で呟く

自らの愚行により百花繚乱の名を穢した

それどころか勘解由小路の名までも地に堕とした

あの砂糖を求め、強奪までしてしまった


この数日間で犯した罪はあまりに多い


「なれば、いっそのこと…これ以上過ちを繰り返さないためにも…」

木の柵に登ろうとする

キヴォトス人といえど、こんな高さから落ちたらひとたまりもないだろう

百花繚乱と勘解由小路の名のため、彼女は飛び降りを選ぼうとしたのだ



──その時

???「おやおやぁ?営業時間はとっくに過ぎていますよぉ?」

「ふえぇっ!?」

突然背後から聞こえた声に驚くユカリ

慌てて柵から足を離して背後の声に対し謝る

「ももも、申し訳ございませんっ!つい出来心で、勝手に入ってしまいました!す、すぐに出ますのでっ!」

「そうですねぇ、確かに不法侵入は良くないことですがぁ…もしや、そうしたいと思うに至った理由が、あるのではないですかぁ?♪」

「…はい?」

「手前、話をするのも好きですが…話を聞くのも好きでして♪もしよろしければ、手前様の悩みを聞かせていただけませんかぁ?」

そう語りかける、従業員のような服装をした小柄な少女

ユカリは、砂糖の影響で精神的に不安定なのもあって相談したいと感じた

月光差す夜中の展望台で、ユカリは自身の犯した過ちやこれからどうすればいいのかをつい相談してしまう


「なるほどぉ…それはそれは、とってもお辛い話でしたねぇ…」

「身共は、一体どうすれば…」

「あはっ♪でしたら、手前に良い案がありますよぉ?」

「ほ、本当ですか!?」

「えぇ…しかし特別なおまじないになるので、一旦目を閉じて口を開けなければいけないんですがぁ…♪」

「も、勿論ですわ!ささ、どうぞ!」

ユカリはすぐに目を閉じて口を開けた


「では…それっ♪」

「んぐぅっ!?」

突如、ユカリの口にビンが突っ込まれた

そして口内にシュワシュワとして炭酸が注ぎ込まれる

驚いて口を離そうとするが、両腕が拘束されてしまう

思わず目を開けると、左右に唐傘のような化生が居て、紐のようなものをユカリの腕に巻き付けていた

「さあさあ!遠慮なくお飲み下さいな!アハハハハッ!」

「ぐむぅ゛っ!ん゛んぅ゛っ…!?」

涙目になってもがこうとする

しかし次の瞬間、ユカリはこの飲み物がとんでもない甘さをしている事に気付く

百夜堂やスイーツ店で食べたお菓子など比べ物にならない程の強烈な甘味


そう、ユカリはあのアビドスサイダーを飲まされてしまったのだ

たちまち恍惚とした表情になり、抵抗をやめてしまう




ビンの中身が空っぽになった

口からビンを引き抜かれ、唐傘の拘束も解かれたユカリはその場で涎とサイダーを口端から垂らしながらうっとりした顔で少女を見つめる

「ぇぁ〜…♡」

「イヒッ!ヒハハハハッ!なんと間抜けなお顔!ですがぁ…手前はそのお顔こそが一番お似合いだと思いますよぉ?」

少女はユカリの綺麗な紫の髪をむんずと乱雑に掴み、狂気と悪意を含んだ赤い瞳を間近に見せながら囁いた

「いいですか?手前様のやるべきことはとても簡単…“アビドスへ行く”ただそれだけです。砂糖の魅力を知り、欲する心があるのならば…彼の地は必ず、手前様を迎え入れてくれます♪

仮にその道中、尊敬する先輩と出会ったとしても迷う必要はありません♪そもそも生ぬるい“調停”なぞに固執して、正義を遂行するのを怠る者達を省みる必要なぞどこにありますかぁ…?手前様の信念を否定するのであれば、そんな輩の言葉に聞く耳を持つ意味なんて…?」

「ありまひぇんわぁ…」

「その通りっ!よくお分かりですねぇ?では此方をお使いください♪」

そう言った少女は、2枚の紙と1つの玉を取り出してユカリに手渡す

「…こ、これは…?」

「こちらは、この展望台近くに駐車中のアビドスに向かう覆面車の場所が記された地図…
(大きめの紙を指差しながら)

こちらは、見せればアビドス行きを許可してくれる特別券…
(小さめのチケットを指差しながら)

こちらは、いざという時の煙幕玉…もし邪魔立てする者がいたら、これを使って逃げてくださいねぇ?
(玉を指差しながら)

手前は陰から、手前様のことをずぅっと見ていますよぉ…?♪」


そう伝えた少女は、刹那のうちに消えた

まるで最初から誰もいなかったかのように…静けさだけが残っていた


「…今のは…ユメ…?」

地図と券と煙幕玉は確かに持っている

では夢ではないのだろう

「…えぇ、えぇ!身共は新たなる快進撃を、あびどすで初めてみせますわー!」

ユカリは急いで展望台を降りた

「えぇっと、地図によれば…展望台から見て東の方向ですわね」


その時

キキョウ「…ユカリ…!?」

レンゲ「お、おい!ユカリだよな!?」

「あ──」

よりにもよってこんなタイミングで

ユカリは先輩2人に出会ってしまった








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シュロ「チッ、あーあ。少々楽しみすぎてしまいましたかぁ。慣れない方向性の“風流”は扱いが難しいですねぇ

あの巫女様が死んでしまうと手前の策が台無しになるところだったので、思わず介入してしまいましたが…はてさて巫女様は如何なさるのか…

…手前を失望させるんじゃねえぞ」

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